【コラム】「再生」暮らしの中のヨガ⑤ 毎日自分を調律
公開日: : コラム
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あるレストランでずっと使われていなかったグランドピアノがありました。
レストランでピアノの演奏会を開くことになり、調律師さんを呼びメンテナンスをして貰いました。長年使われていなかったせいで調律に時間がかかりましたが、何とか音が出るようになりました。
演奏会が間近にせまったある日、ピアニストさんがリハーサルのためにレストランを訪れました。ピアノを実際に演奏して音を確認したいとのことです。椅子に座り演奏が始まって間もなくのことです、突然手が止まりました。「調律した方を今すぐここに呼んでもらえないかしら。」スタッフは慌てて、調律師さんに連絡をして急いでレストランに来て貰うことになりました。
調律師さんが到着するなりピアニストさんは声を荒げます。「この調律は一体どうなっているの!全く音が合っていないじゃないの!」調律師さんも負けじと「いいえ。音は合っています。間違い無く調律はしているので。」両者とも一歩も引かずただならぬ空気が流れ、レストランのスタッフもどうして良いかわからない状況になってしまいました。
この話を聞いてブログをご覧の皆さまはどう考えますでしょうか・・・?
両者ともその道のプロフェッショナルであり、自分の仕事に責任感を持っていて譲らないわけです。しかしながら両者とも大切なことをすっかり忘れてしまっていますよね。
「調律」とは、楽器の音高を演奏に先立って適切な状態に調整することを言います。
それぞれの言い分はわからないわけでもないですが、自分自身のエゴイズムのために押し通してしまっているような気がします。レストランの演奏会に来て下さるお客様の笑顔を考えると、ここで争っている場合でもなく互いの調律が何よりも大切なことだと思うのです。
オーケストラでは演奏が始まる前に音合わせをします。様々な楽器があるなかでオーボエのラ(A)でチューニングをします。ラ(A)は始まりを意味し、音を合わせることで全体的な調和が生まれ素晴らしい演奏になるわけです。きっとこのチューニングは音を合わせるだけでなく気持ちをひとつにする為でもあると思います。
ヨガのレッスンの始まりは、どこかオーケストラのチューニングと似ているところがあります。私はレッスンがスタートし一番に行うことが呼吸の調整です。私自身がヨガを受ける立場であるとき、嬉しい気持ちのときもあれば悲しい気持ちのときもあります。そのときその瞬間で、様々な気持ちや想いを持ってレッスンへ足を運びます。恐らく生徒さんも同じ気持ちではないかと思います。
同じ空間内で、同じ感情はひとつとして無い中で、同じときを過ごす仲間がいます。一人一人が個として存在していながらも大きな集合体となるのが、ヨガでいう広い意味での繋がりを感じる瞬間です。この繋がりをより良く感じるためにも呼吸の調整を行い、心をひとつにレッスンをスタートしていきます。少しずつ調和が生まれ出し、最後に大きな集合体から発せられるエネルギーはとても澄んでいて美しいハーモニーを奏でます。
オーケストラや楽器の世界だけでなく、人間界での調律やチューニングも様々な場面で必要ではないでしょうか。相手がいるからこそ、自分のことだけではなく相手ありきの自分の調律が必要なのです。もしもこの世界に存在するのが自分だけだとしたら・・・調律の必要性は感じられないかもしれません。人と人同士、異なる人間が交わるときに我を押し通したところでうまくいくわけがありません。どこに向かいたいのか、向かう方向性を互いに理解し歩み寄っていかなければいけません。ときにはぶつかり合い、言いたいことを言ったとしても、うまくこれからも関係性を築いていこうと思う着地点が必要です。一方的にどちらかが合わせるというわけでもなく、互いが合わせようと思い良い音を奏でようと思う気持ちです。
一人では生きていけないからこそ相手あっての自分が存在します。関わり合いのなかでひとつひとつ丁寧に調律を日々繰り返しながら過ごせば良いと思うのです。完璧な人間なんていないし、初めから完璧な音だって出せないわけです。言わば調律とは「知行合一」の実践かもしれません。「知は行の始なり、行は知の成るなり」とは、知ることは行為の始めであり、行為は知ることの完成であるという意味です。相手を知ろうと理解しようと歩み寄ろうとしたときに、より良い方向に進みだすのかもしれませんね。
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大竹沙紀
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